キラッキラに生きる Thrive

苦しみを気づきに変える3つの問い|スラトレ®哲学ワーク

苦しい体験から、自分への気づきを取り出していく。本記事では、医師が、苦しみと向き合うための3つのシンプルな問いと、それを記録に残す方法を紹介します。

Q1. なぜ「書き留める」必要があるのか

苦しみの中で気づいたことは、書き留めないと、たいてい消えていきます。

苦しい瞬間に、心の中でふと立ち上がる小さな気づき ── たとえば「あ、自分は本当はこう感じていたんだ」とか、「ここで頑張ろうとしていた自分は無理をしていたんだ」とか、そういう小さな了解 ── は、その瞬間は強く感じても、数時間、数日経つと、輪郭がぼやけていきます。

そして、しばらくすると、また同じ苦しみに直面した時に、「あの時、何かに気づいた気がするのに、何だったか思い出せない」と感じる。そして、また同じ場所で、同じ苦しみを繰り返す。

これは、誰の身にも起きることです。

なぜなら、苦しみの中で立ち上がる気づきは、その瞬間の感情の温度と一緒に成立しているものだからです。感情の温度が下がると、気づきも一緒に消えていく傾向があります。

ここで多くの方は、こう感じます。「気づきを書き留める、と言われても、何を書けばいいかわからない」。

それは正常です。

苦しみの渦中で書こうとすると、感情が強すぎて、言葉にならないことが多いです。一方、苦しみが過ぎ去ってから書こうとすると、もう何を感じていたか思い出せない。タイミングが難しい。

本記事では、この「書く」作業を、できるだけ簡単な3つの問いとして紹介します。完璧に書ける必要はありません。一行でも構いません。書けるだけ書く ── それで十分役に立ちます。

Q2. 気づきの記録とは何か

問いに入る前に、ここで一つ用語を整理しておきます。

苦しみと向き合う作業には、大きく2つのフェーズがあります。

1つ目は「感じる」フェーズ。苦しみを、ただ感じる。感じきる。これは、考えるのではなく、ただ受け取るフェーズです。

2つ目は「言葉にする」フェーズ。感じたものから、自分への気づきを取り出して、言葉にする。これが、本記事で扱うフェーズです。

家のキッチンで、何かを煮込む作業を思い浮かべてください。

煮込んでいる間は、火を止めません。ぐつぐつと、ただ煮え続けます。これが「感じる」フェーズです。

煮上がった後、味見をして、何が入っているかを確かめる。塩加減はどうか、出汁は効いているか、足りない味は何か。── これが「言葉にする」フェーズです。

苦しみも、同じです。煮込んでいる最中に味見しようとすると、熱すぎて何もわからない。ある程度、煮込みが落ち着いてから、ようやく味見ができるようになります。だから、苦しみの最中ではなく、苦しみが少し落ち着いた後、または苦しみの合間の凪の時間に、書く作業をするのがいいタイミングです。

そして、書いた気づきを、捨てずに残していく。一度書いたものを、後で読み返す。読み返すと、その時には気づかなかった別の意味が、後から立ち上がってくることがあります。

この、苦しみから受け取ったメッセージを書き留めて確かめていく作業を、心理学では次のように呼びます。

【気づきの記録】(きづきのきろく / Insight Journaling)とは、苦しみから受け取ったメッセージを、書き留めて確かめる作業のことです。

「ジャーナリング」というのは、日記を書く、という意味の英語ですが、ただ日々の出来事を書くのではなく、自分の内側で起きていることを書く、というニュアンスを持つ言葉です。心理療法・教育の領域でも、「ジャーナリング」は感情整理の手法として広く使われています(Pennebaker, 1997 ほか)。

Q3. 今日からできる、3つの問い

ノートを1冊用意してください。スマホのメモでも構いません。

最近経験した、または今経験している苦しい体験を1つ、思い浮かべてください。それは、人間関係でも、仕事でも、家族との出来事でも、健康のことでも、何でも構いません。ただし、まだ熱すぎて言葉にならないものは、少し時間を置いてから取り組んでください。

その体験について、以下の3つの問いを順番に書いていきます。

問い1:この苦しみは、私の中の何に「触れている」と感じるか

(目的:苦しみが、自分の中の何に届いているかを言語化する)

書き方の例:

  • 「自分は誰にも分かってもらえない、という古い感覚に触れている」
  • 「自分は無価値だ、という底のところに触れている」
  • 「自分は見捨てられる、という子どもの頃からの恐怖に触れている」

ここで大事なのは、難しい言葉を使わないことです。「アイデンティティが」「自己肯定感が」── そういう知的な整理は、ここでは要りません。子どもがそのまま口に出すような、素朴な言葉で書いてください。

そして、思いついた言葉が「これかな?」と曖昧でも構いません。曖昧なまま書いてみると、書いている途中で、もっと正確な言葉が浮かんでくることがあります。

問い2:この苦しみが教えてくれていることは何か。少なくとも1つだけ書くとしたら

(目的:苦しみが運んできたメッセージを取り出す)

書き方の例:

  • 「自分は、今の働き方が限界に来ていることを、知らされている」
  • 「自分は、本当はあの人との関係を見直すべき時期に来ていることを、知らされている」
  • 「自分は、長年見ないようにしてきた感情に、向き合う時期が来たことを、知らされている」

「教えてくれている」という言い方に違和感がある方は、「気づかせようとしていることは何か」と読み替えてください。同じことです。

ここでも、無理に意味を作り出そうとしないでください。「特に何もない」と感じたら、「今は意味が見えない」と書いて構いません。後日読み返した時に、何か見えてくることもあります。

問い3:この苦しみと過ごした後、自分はどんな人になっていたいか

(目的:苦しみとの関係性を、未来に向けて言葉にする)

書き方の例:

  • 「この苦しみを通り抜けた後、自分は、似た苦しみを抱える人に少し優しくなれる人でいたい」
  • 「この経験の後、自分は、無理を続けない選択ができる人でありたい」
  • 「これを越えた後、自分は、独りで抱えこまずに人に頼れる人になっていたい」

ここでは、「強くなる」「乗り越える」といった言葉を、できるだけ使わずに書いてみてください。「強くなる」は、結果を急ぐ言葉です。それより、「どんな人でありたいか」を、ゆっくりと描いてみてください。

ある経営者の方は、この3つの問いをやってみて、こう書きました。

「この苦しみは、自分が長年、独りで全部背負ってきた癖に触れている。教えてくれているのは、もう独りで全部背負わなくていい、ということ。これを越えた後、自分は、人に弱さを見せられる人になっていたい」。

この一文を書いてから、その方は、組織の中で部下に「実はこれが苦手なんだ」と自分から開示する場面が、少しずつ増えていったそうです。これは、苦しみが「教えてくれていたこと」が、本人の行動に変わっていった例です。

Q4. 実践を続けるコツ

この3つの問いは、一度で終わるものではありません。

苦しみの種類が変われば、また同じ問いを立て直すことになります。同じ苦しみでも、時間が経って違う側面が見えてくれば、書き直します。

完璧にやろうとしないでください。月に1回、ノートを開くだけで、十分です。3ヶ月続いたら上出来です。一行しか書けなかった日も、立派な記録です。

書き溜めていったノートは、捨てないでください。半年後、一年後に読み返すと、その時にはわからなかった意味が、後から立ち上がってくることがあります。「あの時の苦しみは、こういうことを教えていたのか」と、後から気づくことがあります。これは、自分の人生を、自分で読み解く力を育てるプロセスでもあります。

そして、もう一つ大切なことがあります。

書いていて、苦しみが「重すぎて、独りでは扱いきれない」と感じることがあります。書いている途中で、感情が大きく揺れて、日常が手につかなくなることもあります。これは、悪いことではありません。長く心の中に置かれていた苦しみが、表に出てきている自然な反応です。

けれど、独りで耐え続ける必要はありません。特に、書いていて出てきたテーマが、深い喪失体験や、長年の人間関係の問題、自分の存在の根に触れる感覚につながっている場合は、専門家と一緒に進めることをおすすめします。回り道のようでいて、それが最も近道になることがあります。

理論編の苦しみは気づきへの招待|医師が解説する痛みの読み替えでは、なぜ苦しみが気づきにつながるのかを解説しています。
体験編の苦しいただ中に、なぜかふと開ける感覚では、苦しみのただ中で訪れる気づきの瞬間を扱っています。

似たテーマの実践として、シチュエーションを鏡として読む3つの問い課題のカリキュラムを読む3つの問い|スラトレ®成長ワーク、そしてシリーズ核心:待つ筋力を育てる最終実践|やえこふクリニックの選択肢も、あわせて読んでみてください。


🩺 専門家と一緒に整理したい方へ

3つの問いを書いてみて、出てきた苦しみのテーマが重く感じられる方、独りでは扱いきれないと感じる方は、専門家と一緒に整理する選択肢があります。

やえこふクリニックでは、経営者・医師・リーダー層向けに、心の奥にあるテーマと向き合うパフォーマンストレーニングをご案内しています。Dr.EKO博士(医師・医学博士)が直接対応します。

やえこふクリニック パフォーマンストレーニングのご案内

まとめ

  • 苦しみの中で立ち上がる気づきは、書き留めないと数日で消える。書き留めることで、財産として残る
  • 気づきの記録(Insight Journaling) は、苦しみから受け取ったメッセージを、書き留めて確かめる作業
  • 鍛え方は、苦しみが触れているものを書く → 教えてくれていることを書く → どんな人になっていたいかを書く、の3つの問い
  • 苦しみの最中ではなく、少し落ち着いた合間に書く。月1回・3日続けば上等
  • 出てきたテーマが重く独りで扱いきれないと感じる時は、専門家と一緒に整理する選択肢がある

監修:Dr.EKO博士(医師・医学博士・株式会社ヤエコフ代表)

免責事項: 本記事は、メンタル思考トレーニングおよびセルフケアに関する情報提供を目的とした内容です。医療行為・心理療法ではありません。重い症状が出ている方は必ず医療機関を受診してください。スラトレ®は、医師が開発したメンタル思考トレーニングです。

最終更新:2026年5月

Dr.EKO博士
Dr.EKO博士(YAEKOFU)
医師・医学博士。スタンフォード大学でEIを学び、スラトレ®(メンタル思考トレーニング)を創始。エグゼクティブ・医師・リーダーの心身パフォーマンス向上を支援しています。