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隠された利得 secondary gainとは|医師が解説する変われない理由

「変わりたいのに、変われない」と何年も口にし続けている方がいます。意志の問題でも、努力の問題でもありません。変わらないことで得ているものが、本人にも見えていないだけ ── これが隠された利得(secondary gain)の正体です。本記事では、スラトレ®(メンタル思考トレーニング)の視点から、医師として、変われない構造を解説します。

Q1. なぜ「変わりたいのに変われない」が起きるのか

ある経営者の方から、こんな相談を受けたことがあります。

「3年前から『部下に仕事を任せたい』と言い続けている。本も読んだ、研修にも行った。なのに、いざとなると、結局自分でやってしまう。意志が弱いのだろうか」

別のリーダーの方は、こうおっしゃいました。

「ずっと痩せたいと言っている。ジムにも入会した。でも続かない。続かない自分が嫌で、また食べてしまう。これがもう10年以上続いている。私は本当に痩せたいのだろうか、もう自分でも分からない」

二人とも、変わりたい気持ちは本物です。意志が弱いわけでも、怠けているわけでもありません。けれど、変わらない。なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。

人の心の中には、「変わりたい自分」と「変わりたくない自分」が同居しています。表向きは、変わりたい自分が前に立っています。「変わりたい」と口に出すのも、ジムに入会するのも、本を読むのも、変わりたい自分の仕事です。

ところが、心の奥には、変わりたくない自分も住んでいます。表には出てきませんが、変わろうとする動きを、後ろから引っぱっています。表向きは前に進もうとして、奥では後ろに引っぱられている。だから、進めません。

ここで重要なのは、変わりたくない自分には、必ず理由がある、ということです。理屈に合わない理由ではなく、その人の人生にとって意味のある理由が、必ずあります。変わってしまうと失うものが、必ずあるのです。

たとえば、部下に任せられない経営者の方は、「自分でやることで、自分の存在価値を確認している」のかもしれません。任せた瞬間、「自分は何のためにここにいるのか」という不安が立ち上がる。だから、頭では任せたいと言いながら、奥では任せたくない自分が、引っぱり続けます。

たとえば、痩せられない方は、「太っている自分でいることで、ある関係性を維持している」のかもしれません。痩せた瞬間、家族の中での自分の位置や、パートナーとの距離感が変わる。それが怖いから、奥の自分が、ダイエットを止めにかかります。

あなたは正常です。変われない自分を「意志の弱さ」と責めてきたなら、その責めは見当違いだった可能性が高いです。あなたは怠けてもいないし、弱くもありません。変わらないことで何かを守っている ── ただそれだけのことです。

Q2. 隠された利得 secondary gain とは何か

ここで、心の中で起きていることを、見える形にしてみます。

想像してみてください。あなたは大きな倉庫の中にいます。倉庫の真ん中に、長年動かしていない大きな箱があります。この箱を動かしたい、と頭では思っています。だから、何度も箱に手をかけて、押そうとします。けれど、動きません。

なぜ動かないかというと、箱の裏側に、太いロープが何本も繋がっているからです。ロープは、倉庫の壁にがっしりと固定されています。あなたが箱を押している間、ロープは反対側に箱を引っぱっています。だから、いくら押しても、箱は微動だにしません。

このロープは、目に見えにくいところにあります。箱の表側だけ見ていると、なぜ動かないのか分かりません。「私の力が足りないんだ」と思います。「もっと頑張れば動かせる」と思います。けれど、何度頑張っても、動きません。

ロープを切らない限り、箱は動かないのです。

人の心の中で起きていることも、これとよく似ています。変わりたい自分が、表側から箱を押している。けれど、心の奥に、変わらないことで得ているもの ── ロープの役割を果たしている何か ── があって、後ろから箱を引っぱっています。だから、いくら押しても、箱は動きません。

ここまで来て、初めて言葉を出せます。

【隠された利得】(かくされたりとく / Secondary Gain)とは、変わらないでいることで、本人が無意識のうちに得ているメリットのことです。

注意したいのは、「無意識のうちに」という部分です。本人は、自分が何かを得ているとは思っていません。むしろ「変われなくて損ばかりしている」と感じています。けれど、心の奥では、変わらないことの見返りを、確実に受け取っています。

見返りの中身は、人によってまったく違います。誰かに守ってもらえる立場、責任を負わなくて済む立場、ある人からの注目、自分への言い訳、過去の自分とのつながり、ある人との関係性、自分の役割の確認 ── どれでも、隠された利得になり得ます。

Q3. 隠された利得の構造と、よくある誤解

隠された利得について、いくつかの誤解をほどいていきます。

誤解1:隠された利得=ずるい自分、ダメな自分

これは違います。隠された利得は、人間として誰にでもあります。変わらないことで何かを守っているのは、あなただけではありません。むしろ、長年同じパターンを繰り返している人ほど、必ず何かしらの隠された利得を持っています。これは性格の問題ではなく、心の構造の問題です。

誤解2:隠された利得を見つければ、すぐ変われる

これも違います。隠された利得を見つけることは、変化の出発点です。けれど、見つけたからといって、すぐにロープが切れるわけではありません。「ああ、私はこれを守っていたのか」と気づいた後も、しばらくはそのロープに引っぱられ続けます。気づきは、変化のためのスタート地点であって、ゴールではありません。

誤解3:隠された利得は、悪いものとして取り除くべき

これも違います。隠された利得は、その人にとって意味があって、奥に住んでいるものです。乱暴に取り除こうとすると、心が傷つきます。大事なのは、利得の存在を認めて、「いま私はこれを守っている」と自覚することです。自覚した上で、続けるか、手放すかを、自分の重さで選び直す。これが、スラトレ®で言う自覚的選択です。

ここで一つ、お伝えしておきたいことがあります。隠された利得の中身が分かると、変われない自分への責めかたが変わります。「意志が弱い」という責めから、「私は今、これを守っているんだ」という認識へ。同じ変われない状態を見ているのに、内側で起きていることが、まったく違ってきます。

責めから認識へ。これだけで、変化への土台ができます。土台ができてから、初めて、ロープを切るかどうかを選び直せるようになります。

Q4. 隠された利得を知ることで、何が変わるか

隠された利得という考え方を持つことで、日常で何が変わるか。3つあります。

一つ目は、自分への問いかけが変わります。「なぜ私は変われないのか」だけでなく、「変わらないことで、私は何を守っているのか」と問えるようになる。問いが変わると、答えも変わります。

二つ目は、人を見る目線が変わります。変わらない部下、変わらないパートナー、変わらない家族を見た時に、「意志が弱い」と一蹴するのではなく、「あの人は、変わらないことで何を守っているのだろう」と一拍置けるようになる。一拍置けると、関わり方も変わります。

三つ目は、変化への急ぎ方が変わります。「すぐに変わらなくては」という焦りから、「自分の中の利得を見届けてから、選び直す」という落ち着きへ。急ぎから落ち着きへ移ると、皮肉なことに、変化が起きやすくなります。

これは知識として頭に置くだけでも、自分への向き合い方が少しずつ変わっていく、という声を、面談の場で多くの方からうかがってきました。※個人の感想であり、効果を保証するものではありません。

具体的にどう感じる場面があるのか、どう向き合う実践があるのかは、シリーズ内の続編にまとめてあります。

体験編「変わりたいのに変われない、と言い続ける利点」では、変われない自分の利得が薄々見えてくる瞬間を描いています。実践編「隠された利得を見つける3つの問い|スラトレ®自己観察ワーク」では、自分の中の利得を見つける問いを紹介しています。

シリーズ核心の「自覚的選択 Conscious Choiceとは|スラトレ®で学ぶ動かない強さ」、シリーズ起点の「動けない vs 動かないの違い|医師が解説する2つの停止状態」、シリーズ到達点「シリーズ核心:待つは、最高難度のスキル|医師が解説するリーダー最後の筋肉」もあわせてご用意しています。


あなたの感情の波がどこで詰まっているか、感情の3階層チェックリストをお渡ししています。読み終えたあとに、自分の中で起きていることを言葉にする手がかりとして、ぜひ受け取ってください。

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まとめ

  • 「変わりたいのに変われない」は、意志の問題ではなく、構造の問題
  • 心の奥には、変わらないことで得ている何か(隠された利得)が必ずある
  • 利得を見つけても、すぐに変われるわけではない。気づきは出発点
  • 利得は、悪いものとして取り除くより、認めて持つ方が変化に近づく
  • 責めから認識へ移ると、変化への土台ができる

監修:Dr.EKO博士(医師・医学博士・株式会社ヤエコフ代表)

免責事項: 本記事は、メンタル思考トレーニングおよびセルフケアに関する情報提供を目的とした内容です。医療行為・心理療法ではありません。重い症状が出ている方は必ず医療機関を受診してください。

最終更新:2026年5月

Dr.EKO博士
Dr.EKO博士(YAEKOFU)
医師・医学博士。スタンフォード大学でEIを学び、スラトレ®(メンタル思考トレーニング)を創始。エグゼクティブ・医師・リーダーの心身パフォーマンス向上を支援しています。