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自分で選んだはずの仕事に、なぜ違和感があるのか

「これは私が自分で選んだ仕事だ。なのに、なぜ違和感があるのだろう」。本記事では、自分の人生を主体的に選んできたつもりが、ある日ふと立ち止まりたくなる ── あの瞬間を、スラトレ®(メンタル思考トレーニング)の視点から、医師として描いていきます。

Q1. なぜ「自分で選んだのに違和感」が訪れるのか

ある経営者の方が、ご自身の朝の感覚をこう話されたことがあります。

「朝起きて、出社の準備をしている時に、ふと『何のためにこれをしているのだろう』と思う瞬間がある。会社は順調だし、家族とも仲がいい。でも、何か小さなボタンの掛け違いがあるような感覚が、胸の真ん中に残っている」

別の医師の方は、こうおっしゃいました。

「医学部に入ったのも、専門科を選んだのも、開業したのも、全部自分で決めたつもりだ。でも、最近ふと、『あれは本当に私が選んだのか、それとも親や周りの期待に応えただけなのか』が分からなくなる」

二人とも、外から見れば順調で、自分でも「選んできた」という自覚がある方です。けれど、何か小さな違和感を抱えている。

この違和感は、人生の途中で多くの方に訪れます。20代では出てこなかったものが、30代後半、40代、50代になって出てくる。あるいは、大きな成功や、家族の節目や、健康の不調をきっかけに、ふと表に出てくる。

選んでいないのに「選んだ」というラベルを貼ってきた選択が、年月を経て、心の奥でラベルを剥がし始めている ── そんな現象に近いかもしれません。

Q2. その違和感を、もう少し見える形にすると

朝の出社準備の違和感、夜中にふと立ち上がる「これは本当に私が選んだのか」という問い。これらをもう少し言語化してみます。

ある方は、こう話されました。

「30年やってきた仕事に、最近どうも本気で打ち込めない。やる気がないわけではない。けれど、自分の魂のどこかが、この仕事に同意していない感じがする」

別の方は、こうおっしゃいました。

「家族と過ごす時間も、仕事の成果も、傍から見れば充実している。でも、夜寝る前にベッドの中で『これでよかったのだろうか』とつぶやいてしまう。理由は分からない」

この、魂の同意のなさ、ベッドの中のつぶやき。これは、心の深いところで何かが起きているサインです。

なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。

人が何かを選ぶ時、心の中には複数の声が同時に鳴っています。一つは頭の声。「これが合理的だ」「これが期待に応える」「これが安全だ」。もう一つは身体や感情の声。「これがしっくりくる」「これは違和感がある」。

若い頃、人は頭の声を優先して選択しがちです。期待に応えること、合理的であること、安全であること。これらは生きていく上で必要な視点です。一方、身体や感情の声は、「この声を聞いていたら、生きていけない」と思って、奥にしまい込みます。

奥にしまい込んだ声は、消えません。地下水のように溜まっていきます。10年、20年、30年と溜め続けていくうちに、ある日、容量を超えて、地表に少しだけしみ出します。これが、朝の違和感、ベッドの中のつぶやきの正体です。

あなたは正常です。30年溜め続けた身体や感情の声が、ある日地表にしみ出してくるのは、人間として極めて自然な反応です。むしろ、しみ出してこない方が不自然です。違和感を覚えている自分を「贅沢な悩み」「恵まれているくせに」と責める必要はありません。違和感は、心の深いところで自分の人生を確かめ直そうとしている、健全なサインです。

精神医学・心理学の領域では、この働きを 【選択への疎外感】(せんたくへのそがいかん / Self-Choice Estrangement) と呼びます。

【選択への疎外感】とは、自分で選んだはずの人生の選択が、長い年月を経て、自分自身のものに感じられなくなっていく感覚のことです。

Q3. 違和感の正体を、もう少し掘り下げる

違和感を抱えている方々に共通している感覚を、いくつか挙げてみます。

感覚1:「他人の人生を生きている気がする」

ある方は、こうおっしゃいました。「自分の人生のはずなのに、他人の人生を演じているような感覚がある。台本通りに動いている俳優のような感覚」と。これは、過去の選択の多くが、自分の重さではなく、外部の期待で選ばれていたサインです。

感覚2:「成功したのに、空虚」

別の方は、こう話されました。「この10年で目標としてきた数字を達成した。なのに、達成した瞬間、空虚感が広がった」と。これは、目標自体が自分のものではなかったサインです。他人の目標を達成しても、自分の心は満たされません。

感覚3:「自分の本当の気持ちが分からない」

別の方は、こうおっしゃいました。「何が好きで、何が嫌いか、何をしたいか、自分でも分からなくなった」と。これは、長年、頭の声だけで選んできて、身体や感情の声を聴く習慣を失ったサインです。

なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。

人の心は、長年使わなかった機能を、使えなくなる方向にメンテナンスしていきます。階段の踊り場にある、何年も開けていない窓のようなものです。最初は開けようと思えば開けられた窓が、ある時から、開け方を忘れてしまう。

身体や感情の声を聴く機能も、同じです。20代、30代と、頭の声だけで生きてきた人は、身体や感情の声を聴く回路が、徐々に錆びていきます。40代、50代になって、ふとその声を聴こうとしても、聴き方を忘れている。「自分の本当の気持ちが分からない」は、こうして起きます。

あなたは正常です。長年使わなかった機能が錆びるのは、人体・心の自然な動きです。錆びた機能は、もう一度ゆっくりと使い直していけば、少しずつ戻ってきます。「分からない」は、終着点ではなく、再起動の出発点です。

Q4. 違和感を、どう持ち歩くか

違和感を抱えた時、どう持ち歩くか。これは、人によって違います。

すぐに大きな選択をする方もいます。仕事を辞める、関係を見直す、住む場所を変える。これは一つの道です。けれど、違和感が訪れた直後の選択は、振り子のように反対側に振れすぎることがあります。慎重さも、必要です。

多くの方は、すぐには動きません。違和感を抱えたまま、しばらくの時間、それを観察します。観察するというのは、違和感を消そうとせず、追い払おうとせず、ただ「ある」と認めて持ち歩く、ということです。

抱えて過ごす期間に何をするか。一つは、違和感の中身を細かく分解していきます。「どの場面で違和感が強くなるか」「どの場面で違和感が薄れるか」「違和感の奥に、どんな感情があるか」。

これらの問いは、答えがすぐに出るものではありません。けれど、問い続けているうちに、違和感の正体が、少しずつ言葉になってきます。言葉になると、ようやく自覚的に選び直す土台ができます。

選び直しの実践を、シリーズ内の実践編にまとめてあります。「自覚的に選び直す3つのステップ|スラトレ®実践ノート」をあわせて読んでいただけると、違和感を、後ろめたさではなく、自分の選択の入口として持ち直す手がかりになると思います。

理論編「自覚的選択 Conscious Choiceとは|スラトレ®で学ぶ動かない強さ」では、なぜ自覚的選択が大事なのかを解説しています。シリーズ起点の「動けない vs 動かないの違い|医師が解説する2つの停止状態」、変われない構造を扱う「隠された利得 secondary gainとは|医師が解説する変われない理由」もあわせてお読みください。

そして、シリーズの核心となる「動ける人ほど待ちにくい構造」については、「待つは、最高難度のスキル|医師が解説するリーダー最後の筋肉」をどうぞ。


あなたの感情の波がどこで詰まっているか、感情の3階層チェックリストをお渡ししています。読み終えたあとに、自分の中で起きていることを言葉にする手がかりとして、ぜひ受け取ってください。

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まとめ

  • 違和感は、長年溜めた身体や感情の声が、地表にしみ出してきたもの
  • 違和感を覚えている自分を「贅沢な悩み」と責める必要はない
  • 「他人の人生を生きている」「成功したのに空虚」「気持ちが分からない」は、よくある感覚
  • 長年使わなかった機能は錆びる。錆びは、ゆっくり使い直すと戻る
  • すぐに大きな選択をしない。抱えて観察する期間に意味がある

監修:Dr.EKO博士(医師・医学博士・株式会社ヤエコフ代表)

免責事項: 本記事は、メンタル思考トレーニングおよびセルフケアに関する情報提供を目的とした内容です。医療行為・心理療法ではありません。重い症状が出ている方は必ず医療機関を受診してください。

最終更新:2026年5月

Dr.EKO博士
Dr.EKO博士(YAEKOFU)
医師・医学博士。スタンフォード大学でEIを学び、スラトレ®(メンタル思考トレーニング)を創始。エグゼクティブ・医師・リーダーの心身パフォーマンス向上を支援しています。