キラッキラに生きる Thrive

また同じ課題が来た、と思った瞬間

「これ、前にも取り組んだはずなのに」── 同じ種類の課題が、形を変えて、もう一度目の前に現れる瞬間があります。本記事では、その瞬間に内側で何が起きているのかを、医師が描きます。

Q1. その瞬間は、どんな感じでやってくるのか

それは、たいてい、「またか」というため息と一緒に来ます。

ある経営者の方が、こう話してくれました。

「20代の頃、自分一人で全部やろうとして燃え尽きた経験があります。あの時、人に頼ることを学んだはずでした。30代でチームを作って、人に任せられるようになった、と思っていました。なのに40代に入って、会社が大きくなった時に、また同じことをやっていたんです。全部自分で抱え込もうとしている自分に、ある日ふと気づきました。20年前と、何も変わっていなかった」

別の医師の方は、こう話してくれました。

「30代の前半で、燃え尽きを経験して、それから自分のペースを大事にすることを学んだはずでした。けれど、40代に入って、立場が変わった時に、また同じやり方に戻っていました。深夜まで仕事を持ち帰って、休みを取らずに走って、限界まで行って、ある朝、起き上がれなくなった。10年前と、まったく同じ場所に立っていました」

なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。

普通に考えれば、一度学んだはずのことは、もう繰り返さないはずです。「人に頼ることを覚えた」「無理をしない自分になった」── そう思って次に進んだのに、何年か経つと、また同じ場所に立っている。

ここで先回りして言っておきます。あなたは正常です。

一度乗り越えたはずの課題が、また形を変えて戻ってくる ── これは、学びが定着していないからでも、自分が成長していないからでも、努力が足りないからでもありません。むしろ、人として深く生きている証拠でもあります。

そして、こういう瞬間に「自分は何も学んでいなかった」と感じるのは、よくあることです。けれど、実はそうではありません。同じ課題に「気づける」ということ自体が、前回からの成長を意味しています。

Q2. 人生の節目とは何か

なぜ、一度乗り越えたはずの課題が、形を変えて戻ってくるのでしょうか。

ここで、日常の例で考えてみます。

筋トレを思い浮かべてください。

最初に5キロのダンベルを使い始めたとします。最初の1ヶ月は、5キロが重く感じられて、上げるのがやっとです。けれど、続けているうちに、5キロが軽く感じるようになります。「これは余裕だ」と思って、次は7キロに上げる。

7キロに上げると、また最初の頃の感覚が戻ってきます。重い、上がらない、つらい。── 5キロで卒業したはずの「重さの感覚」が、7キロというステージで、もう一度立ち上がってきます。

ここで「自分はまた最初に戻ってしまった」と落ち込む人がいます。けれど、実際には戻っていません。5キロを軽く感じる筋肉ができたから、7キロに上がれた。7キロを重く感じるのは、退化ではなく、新しいステージに入った証拠です。

人生の課題も、これに似ています。

20代で「自分一人で抱え込まずに、人に頼ろう」という課題に取り組んだとします。会社員として、上司や同僚に頼れるようになって、その課題を一段クリアした。

40代になって、自分が経営者になり、何十人もの人を率いる立場になります。すると、20代の時の「人に頼る」とは、まったく違うレベルの「人に頼る」が必要になります。20代の時は「自分のことを助けてもらう」だけでよかった。40代では、「他人の人生も巻き込んで一緒に歩む」というレベルでの「頼る」が要求される。

これは、5キロから7キロへの移行と似ています。前のステージでクリアしたはずの課題が、新しいステージで「同じ名前」だけれど「違う重さ」で戻ってくる。

家を建て替える時にも、似たことが起きます。

最初の家を建てた時に、「家とは何か」を考え抜いて、自分なりの答えを出した、とします。10年後にリフォームをする時、また「家とは何か」を考え直すことになります。20年後に建て替える時、もう一度考え直します。同じ問いが、人生の節目ごとに、違う深さで戻ってくる。

このように、人生のある段階で、それまでとは違う深さで取り組み直すことになる時期を、心理学では次のように呼びます。

【人生の節目】(じんせいのふしめ / Life Transition)とは、困難をきっかけに、人生の段階が一つ進む体験のことです。

「節目」というのは、竹の節のように、それまでの段階と次の段階を区切る、人生の境目のことです。境目では、それまでの自分のやり方が通用しなくなります。だから、苦しい。けれど、この苦しさを通り抜けると、人生の段階が一つ進む。そういう構造を持つ時期です。

これは精神医学・発達心理学の中で、「ライフ・トランジション」という枠組みで研究されてきたテーマです(Bridges, 1980; Levinson, 1978 ほか)。

Q3. それに気づいた人は、何を感じるのか

「また同じ課題が来た」と気づいた人が感じることには、いくつかの段階があります。

段階1:落胆

最初に来るのは、たいてい、深い落胆です。「20年前と何も変わっていなかった」「自分は何も学んでいなかった」── そういう底冷えした感覚。これは、よくあることです。

気づきは、まず痛みとして来ます。

段階2:自己嫌悪、または無力感

次に来るのは、自己嫌悪や無力感です。「これだけ生きてきて、また同じ場所に立っている自分が情けない」「もうこのパターンから抜け出せないのかもしれない」── そう感じる方が多いです。

ここで多くの方は、しばらくこの段階で立ち止まります。それは、悪いことではありません。落胆と自己嫌悪を、ある程度しっかり感じきることで、次の段階に進めるからです。

段階3:再認識

時間が経って、感情が少し落ち着いた頃、ふと、別の見え方が来ます。「あ、これは、20年前と同じ場所ではないかもしれない。同じ名前の課題が、違うレベルで来たのかもしれない」と。

そう思えた瞬間、課題への向き合い方が変わります。20年前と「同じ自分」が同じ場所に立っているのではなく、20年分の経験を持った今の自分が、同じテーマの新しいバージョンに取り組もうとしている ── そう見えてくる。

産業医として経営者・医師の方々と関わってきた経験の中で言うと、段階3に立てた方は、その時期に取り組む内容も、その後の人生の流れも、ゆっくりと変わっていく傾向があると感じています。それは、課題が消えるからではなく、課題と向き合う時の自分の立ち位置が、少しだけ変わるからです。

これは「強くなった」というより、「同じ景色に、新しい意味を持って立てるようになった」に近い感覚です。

Q4. 同じ課題に気づいた、あなたへ

もし今、「また同じ課題が来てしまった」と感じているところなら、まず、そう気づけたこと自体を、大切にしてください。

10年前のあなたは、同じ場所に立っていても、それが「同じ課題の戻りである」と気づけていなかったかもしれません。今のあなたは、少なくとも気づいている。これは、進んだ位置です。

そして、落胆と自己嫌悪は、急いで通り抜けようとしないでください。それを、感じきっていい時期です。「前向きに考えよう」と急ぐと、感情が置き去りになって、後で同じ場所にもう一度戻ってくることになります。

ただ、独りでこの時期を抱え込もうとすると、消耗します。なぜなら、同じ課題が戻ってきた時、本人は前回の経験との比較でしか自分を見られなくなり、視界が狭くなるからです。「前回の自分と今の自分は何が違うのか」「同じテーマの中で、今回は何が新しいのか」── これは、独りで見るには難しい問いです。誰かと一緒に整理する時間が、結果として、最も近道になることがあります。

この体験の背景にある仕組みについては、理論編の人生のカリキュラムとしての困難|医師が解説する成長の構造で詳しく書いています。
具体的に、どう向き合っていくかについては、実践編の課題のカリキュラムを読む3つの問い|スラトレ®成長ワークで扱っています。

似た感覚として、苦しいただ中に、なぜかふと開ける感覚気づいたら、また同じ役を演じている自分、そしてシリーズ核心:待った日の夜、何度も判断を確かめ直す自分も、あわせて読んでみてください。同じテーマが、別の角度から描かれています。

あなたの「また同じ課題が来た」という気づきは、独りで抱える必要はありません。


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まとめ

  • 「また同じ課題が来た」と気づく瞬間は、深い落胆と一緒に来る。けれど、気づけたこと自体が前回からの成長
  • 人生の節目(Life Transition) は、困難をきっかけに、人生の段階が一つ進む体験
  • 同じ名前の課題が、違う重さ・違う深さで戻ってくる。退化ではなく、新しいステージに入った証拠
  • 気づいた人は、落胆 → 自己嫌悪/無力感 → 再認識、と段階を踏むことが多い
  • 同じ課題の戻りは、独りで見ると視界が狭くなる。誰かと一緒に振り返るほうが、結果として進みやすいことがある

監修:Dr.EKO博士(医師・医学博士・株式会社ヤエコフ代表)

免責事項: 本記事は、メンタル思考トレーニングおよびセルフケアに関する情報提供を目的とした内容です。医療行為・心理療法ではありません。重い症状が出ている方は必ず医療機関を受診してください。スラトレ®は、医師が開発したメンタル思考トレーニングです。

最終更新:2026年5月

Dr.EKO博士
Dr.EKO博士(YAEKOFU)
医師・医学博士。スタンフォード大学でEIを学び、スラトレ®(メンタル思考トレーニング)を創始。エグゼクティブ・医師・リーダーの心身パフォーマンス向上を支援しています。