キラッキラに生きる Thrive

マネーリテラシーを構造ごと立て直す3つの問い

「お金のことが苦手」という感覚を、知識を増やすことではなく、自分の中の構造から立て直すための実践です。本記事では、メンタル思考トレーニング(スラトレ®)の視点から、3つの問いを順に置きながら、お金の話題で身体に出てくる反応を、自分の言葉で扱い直していく手順をお伝えします。投資の本も家計の本も読んできた方にこそ、最後の選択肢として読んでいただきたい内容です。

Q1. なぜ「知識を増やす」だけでは、苦手感が変わらないのか

理論編・体験編を読み終えたあと、こんな感覚が残っている方が多いのではないでしょうか。

「言っていることは分かった。でも、明日また家族とお金の話題になったら、また同じように口が重くなる気がする」

頭で分かっても、身体の反応が変わらない。これは、あなたの理解が浅いからではありません。

人の身体は、子どもの頃から繰り返してきた反応を、深いところに保存します。たとえば、自転車に乗れる人は、もう「右足を踏んで、ハンドルを切って」と考えません。考えなくても勝手に身体が動く。お金の話題で口が重くなる方の身体も、これと同じ状態になっています。何十年も「ここでは下がっておく方が安全」という経験を積んできた身体は、お金の話題が始まった瞬間に、考える前に反応が出ます。

知識を増やすことは、頭の作業です。けれど、身体の反応は、頭の作業だけでは書き換わりません。書き換えるためには、身体の反応に名前をつけて、自分で観察する時間が要ります。「ああ、今、自分の身体はこう反応した」と、本人の手で確認する作業です。

ご相談に来られる方の中には、こうおっしゃる方が多くいらっしゃいます。

「家計の本も、投資の本も、十冊以上読んだ。資格の勉強もした。それでも、家族との会話でお金の話題になると、なぜか口が重くなる。けれど、自分の中で起きている反応について三つの問いを書き出したら、その後の同じ場面で、ほんの少しだけ息が吸いやすくなった」と。これは決して珍しい変化ではなく、面談の場では同じような声を、何度もうかがってきました。

本が間違っているのではありません。本は知識を渡すためのものであって、身体の反応を扱うためのものではないからです。身体の反応を扱うには、知識とは別の手順が要ります。

これからお渡しするのは、その三つの問いです。それぞれ、紙に書き出して10分前後。最初の負荷としては、これで十分です。

Q2. 家計管理という考え方

実践に入る前に、ひとつだけ言葉を共有させてください。

これから紹介する3つの問いは、すべて「ある一つの感覚」を取り戻すためのものです。その感覚は、家のキッチンと似ています。

キッチンには、調味料、食材、調理器具が並んでいます。料理が上手な方は、ただ「キッチンに何があるか」を知っているだけではありません。「今日の冷蔵庫に何が残っているか」「明日まで持つもの、今日のうちに使うもの」「家族の誰が、どの味を好むか」── 全体の流れと、自分の好みと、家族の事情を、すべて頭に入れた上で、その日のメニューを決めています。

レシピ本を読むことと、自分のキッチンで料理することは、似ているようで、まったく違う作業です。レシピ本は、誰のキッチンにも当てはまる平均的な手順です。けれど、本当に料理ができるようになるのは、自分のキッチンで、自分の家族のために、自分の手で何度も繰り返した時です。

お金との関係も、これと同じです。投資の本や家計の本は、レシピ本です。読むことは大事です。けれど、本を読むだけでは、自分のキッチン ── つまり、自分の家のお金の流れ、自分の家族の事情、自分の好みと、自分の身体の反応 ── を扱う手は育ちません。育つのは、自分のキッチンで、何度も自分の手を動かしたときです。

3つの問いは、知識を増やす作業ではありません。あなたの中にある「自分のキッチン」を、改めて自分の目で見直す作業です。

この「家庭のお金の流れを、本人の手で見直し、計画的に扱う作業」を、メンタル思考トレーニング(スラトレ®)の現場では、ある一つの言葉で扱っています。

【家計管理】(かけいかんり / Household Finance Management)とは、家庭のお金の流れを把握し、計画的に動かす作業のことです。

ポイントは「家計簿をつけること」と同じではない、というところです。家計簿は道具の一つにすぎません。家計管理の中心は、お金の流れを「自分の言葉で説明できるようにする」ことです。説明できれば、扱える。扱えれば、苦手感は少しずつ薄れます。

レシピ本を10冊読むより、自分のキッチンを一度、自分の目で見直す。3つの問いは、その見直しのための入り口です。

Q3. 今日からできる3つの問い

紙とペンを用意してください。スマートフォンのメモでも構いません。文字にするのが大事です。頭の中で答えると、答えがすぐに流れ去って、輪郭が残りません。

そして、ご自身が「お金の話題になると、自分が下がる」と感じる、具体的な場面を一つ思い浮かべてください。家族との食卓、親戚の集まり、職場の雑談、夫婦のお金についての話し合い ── どれでも構いません。一つの「下がる場面」を選んでから、3つの問いに進みます。

問い1:その場で、自分の身体は何をしているか

選んだ場面を、頭の中で再生してみてください。そして、その場面の中の自分の身体に意識を向けます。ノートに、こう書いてください。

> 「あの場面で、私の〇〇は、〇〇のような感じになっている」

たとえば、こんな書き方があります。

  • 「あの場面で、私の喉は、すっと細くなるような感じになっている」
  • 「あの場面で、私の肩は、少し前に丸くなる感じになっている」
  • 「あの場面で、私のお腹の奥は、軽くきゅっとなる感じになっている」
  • 「あの場面で、私の口の中は、なんとなく乾く感じになっている」

身体感覚は、人によって違います。正解はありません。自分の身体が、その場面でどう反応しているかを、言葉にします。

なぜこれをやるのか。身体の反応に名前をつけられないままだと、その反応は「謎の苦手感」として一括処理されて、扱えるものにならないからです。「喉が細くなる」と書ければ、それは「ある特定の身体の反応」になります。一括処理されていたものが、見える反応になります。見える反応は、扱える反応です。

書きにくい場合、次の問いを先にやってから、また戻ってきても構いません。

問い2:その身体の反応は、いつから始まったか

問い1で書いた身体の反応について、次の問いに進みます。ノートに、こう書いてください。

> 「この反応は、たぶん、〇〇の頃から始まっている」

正確な時期は、思い出せなくて構いません。「子どもの頃から」「結婚してから」「ある集まりに出るようになってから」「たぶん、ずっと前から」── ぼんやりした答えで十分です。

ある方は、面談でこの問いを書き出したとき、最初は「いつからかわからない」と書きました。けれど、書いてしばらく考えた後、「そういえば、子どもの頃、夕食の時に父と兄が経済の話をしている横で、私は黙ってお茶を飲んでいる、あの光景が浮かぶ」と話されました。「あの光景が浮かんだ瞬間、肩のあたりがふっと温かくなった気がした」と続けられました。これは決して珍しい変化ではなく、面談の場では同じような声を、何度もうかがってきました。

なぜこれをやるのか。身体の反応の「出発点」を一度でも自分の言葉で言えると、その反応は「自分の中で勝手に湧いているもの」から「過去のどこかで身についたもの」に変わるからです。前者は責めの対象になりますが、後者は責めるものではありません。出発点が見えると、責める対象が「自分の能力」から「過去の構造」に移ります。責める相手が変わると、心の重さが変わります。

「思い出せない」と書いて止まっても、構いません。思い出せないこと自体が、深いところに染み込んでいる証拠です。それは、書けたうちに入ります。

問い3:その反応を、今日からどう扱いたいか

最後の問いです。問い1と問い2で書いたものを読み直してから、ノートにこう書いてください。

> 「この反応について、私は、〇〇という付き合い方をしてみたい」

たとえば、こんな書き方があります。

  • 「すぐに無くそうとせず、出てくるたびに『ああ、また出てきたね』と挨拶するような付き合い方をしてみたい」
  • 「責めるのではなく、子どもの頃から私を守ってきた反応として、お礼を言うような付き合い方をしてみたい」
  • 「次にこの場面が来たら、無理に話そうとせず、ただ『今、私の喉は細くなっている』と心の中で確認するような付き合い方をしてみたい」

ここで大事なのは、「治す」「無くす」ではなく、「付き合う」と書くことです。

子どもの頃から長い時間をかけて身体に染み込んだ反応は、すぐには消えません。消そうとすると、かえって反応は強くなります。だから、消すのではなく、付き合う。付き合いながら、ゆっくりと別の反応も身につけていく。それが、結果として一番早い道のりになります。

なぜこれをやるのか。「治す」は反応を敵に回しますが、「付き合う」は反応を味方にします。敵に回した反応は強く出ます。味方になった反応は、少しずつ静かになっていきます。同じ反応でも、こちらの扱い方で、出方が変わるようです。※個人の感想であり、効果を保証するものではありません。

これが、3つの問いです。身体は何をしているか / いつから始まったか / どう付き合いたいか。書く時間は、合わせて10分前後。1kgのダンベルから始める、それくらいの負荷です。

Q4. 続けるためのコツ

完璧にやろうとしない

3つの問いをすべて、隅々まで答え切ろうとすると、ほとんどの方が一度で疲れて、二度とやらなくなります。書ける範囲で、書ける言葉で、書けるだけ書く。「ここは、まだ言葉にできない」と書いて止まる箇所があっても、それで一回分です。1kgのダンベルを、1秒だけ持ち上げたのと同じです。

反応が出た直後に書くと、よく書ける

毎日やる必要はありません。むしろ、何も起きていない日に書こうとすると、書けません。家族との会話でお金の話題になり、口が重くなった夜。親戚の集まりから帰った日。そういう日にだけ書く、という姿勢が、続きやすいです。3日続いたら、それは続いた方の部類に入ります。

「思い出せない」と書けることは、進歩

問い2で「いつからか思い出せない」と書けるのは、自分の中の深い場所に、何かがあると感じられている証拠です。それは書けたうちに入ります。書けないまま、ただ「自分はお金の話が苦手」とまとめて処理していた時期に比べれば、大きな一歩です。

独りで抱え込まなくてよい

3つの問いを書き出してみたけれど、何が出てきているのか、自分でも整理しきれない ── そう感じる方もいらっしゃいます。それは、努力が足りないからではありません。身体に染み込んだ反応の根は、子どもの頃から積み重ねた家族との関係、文化、社会の中の役割と、深く絡み合っていることが多く、独りで全部ほどくには大きすぎることがあります。

シリーズ内には、理論編「日本女性のマネーリテラシー構造的課題|医師が解説する背景(理論編)」と体験編「お金の話をする場で、なぜ自分が黙るのか(体験編)」もあわせてご用意しています。関連する実践として「世界観のズレと折り合う3つの問い|スラトレ®関係性ワーク」「得た感受性を活かす3つの問い|スラトレ®大金経験ワーク」もご用意しています。独りで読み進めながら整理してみるのも、一つの選び方です。

そして、こうした「自分の中の反応に向き合う」というワークの集大成は、シリーズ全体の核心テーマである「シリーズ核心:待つ筋力を育てる最終実践|やえこふクリニックの選択肢」につながっています。

それでも独りで進めるには重い、と感じるときは、専門家と一緒に整理する選択肢があります。


やえこふクリニック パフォーマンストレーニングのご案内

この記事の実践ワークを試してみても、変化が起きにくいと感じる方もいらっしゃいます。お金との関係の奥には、子どもの頃の家族との場面、文化、社会の中の役割が、深く絡み合っていることが多いからです。一人で見えにくい部分を、対話の中で見えるようにする時間が、役に立つことがあります。

やえこふクリニックでは、女性経営者・専門職の方向けに、Dr.EKO博士(医師・医学博士)が監修するパフォーマンストレーニングをご案内しています。「あらゆる方法を試したけれど、最後にもう一度整理し直したい」という方のための場です。

やえこふクリニック パフォーマンストレーニング案内


まとめ

  • 「お金が苦手」を変えるには、知識を増やす前に、身体の反応に名前をつける作業が要ります
  • 3つの問いは、紙に書き出して合わせて10分前後。1kgのダンベルから始めるのがコツです
  • 問い1:その場で、自分の身体は何をしているか
  • 問い2:その身体の反応は、いつから始まったか
  • 問い3:その反応を、今日からどう扱いたいか
  • 「治す」のではなく「付き合う」という姿勢が、結果として一番早い道のりになります
  • 完璧を目指さない。反応が出た直後に書く。3日続けば上等です
  • 独りで抱え込まなくてよい。専門家と一緒に整理する選択肢があります

監修:Dr.EKO博士(医師・医学博士・株式会社ヤエコフ代表)

免責事項: 本記事は、メンタル思考トレーニング(スラトレ®)およびセルフケアに関する情報提供を目的とした内容です。医療行為・心理療法ではありません。重い症状が出ている方は医療機関の受診をおすすめします。

最終更新:2026年5月

Dr.EKO博士
Dr.EKO博士(YAEKOFU)
医師・医学博士。スタンフォード大学でEIを学び、スラトレ®(メンタル思考トレーニング)を創始。エグゼクティブ・医師・リーダーの心身パフォーマンス向上を支援しています。