風邪をひいたら、とりあえず病院へ行く。そんな行動が「当たり前」ではなくなる時代が、すぐそこまで来ています。Dr.EKO博士(整形外科医・医学博士)が、医療制度の変化と、自分自身を守るためのセルフケアについてお伝えします。
風邪で病院に行けない時代が始まっている
医療の現場では、保険診療の限界が静かに明らかになってきました。高齢化、財源不足、慢性的な人手不足──こうした問題が複雑に絡み合い、医療従事者は疲弊し、制度そのものが少しずつ崩れかけています。
※ 実際に増え続けている医療機関の倒産件数など、背景の具体データについては、次回の記事であらためて触れたいと思います。
そんな中、「風邪で病院に行くのはやめよう」「軽症なら自宅で様子を見てほしい」という空気が、社会全体に静かに浸透しつつあります。医療資源を守るという観点で見れば、この流れはある意味では“正しい”のかもしれません。
けれど、私はずっと疑問に感じてきました。本当に、風邪をひいたときに人が病院へ行く理由は「診察」なのでしょうか。熱を下げる薬や喉の痛みを取る処方が目的なのでしょうか。私はそうではないと思っています。
人が病院へ行く本当の理由は「診察」ではなく「安心」
風邪をひくと、人は少しだけ弱くなります。気持ちが落ち込み、思考が鈍くなり、いつもなら受け流せるようなことが、なぜか不安になります。
そんなとき、白衣を着た誰かに「大丈夫ですよ」と言ってもらうこと。その体験こそが、症状以上に必要なことだったのではないでしょうか。言い換えれば、「診てもらう」ことで、私たちは“安心”を受け取っていたのです。
それは身体を治すというより、「自分の状態を、誰かに肯定してもらう」ための時間だったのかもしれません。ところが今、その“安心を受け取る機会”が、静かに奪われようとしています。
制度的な制限を大きく受け、受診抑制の空気そのものを、私は日々感じています。国民皆保険としての制度疲弊の“先”を考えるとき、「誰にも見せられない不安」を、私たちはどこで癒せばいいのでしょうか。
ロンドンで知った「医療に頼れない」という感覚
数年前、ロンドン滞在中に体調を崩し、外来点滴を希望したことがありました。医師であればこそ、「これは点滴を打たないと危うい」と自覚できる状態でした。
けれど、現地の医師には「風邪くらいで点滴はできない医療事情なんだ」と切実な声を聞かされ、断られました。薬も得られず、自宅で自然回復を促されただけ。2日で回復できたはずのところを、1週間はかかりました。つまり、こうした世界が日本でももうすぐ目の前だ、ということです。
文化の違いだとわかっていても、“自分で正しく状態を判断できるはずの医師”としての意見が通じなかったことに、私は深い寂しさのような感覚を覚えました。「誰にも頼れない」という感覚は、身体の不調よりも、心の静かな痛みとして残ります。
この経験があったからこそ、「医療の価値」は“治療”だけではなく、“安心の受け渡し”なのだと、私の中で言葉を持つようになりました。
「自分で自分に安心を返す」という問いと向き合う
今、私はこんな問いを抱えながら暮らしています。「他者に“安心させてもらう”のではなく、自分が自分に“安心を返す”には、どうしたらいいのだろう?」
この問いに、明確な正解はありません。けれど、私自身の体験から言えることがあります。“誰かにしてもらう”のではなく、“自分でする”という姿勢が、これからのセルフケアの鍵になるということです。
風邪をひいたときに備えたい、3つの自分準備
万が一、風邪をひいたときに備えて、こんな3つの準備を心がけてみてください。
1. 自分に合った「小さな備え」を揃えておく
市販薬や漢方、お茶など、量ではなく質を意識して選びます。信頼できる医師や薬剤師の意見を聞きながら、「自分の身体が喜ぶもの」を私は常備しています。
2. 「いつ病院へ行くか」のラインを言語化しておく
呼吸の異常、脱水、発熱の持続、意識の変化──医療のプロとしての視点と、自分の直感の両方を使って、“自分なりの判断基準”を持つようにしています。
3. 自分の感覚に毎日ほんの少しだけ意識を向ける
呼吸、睡眠、食事、表情、肌の乾き、声の張り。細やかな変化に気づく習慣が、“受診前の自分”を守ってくれると実感しています。
自分自身を、誰よりも信頼できるケアの担い手に
こうした準備は、制度にも教科書にも書かれていません。けれど、自分自身を「誰よりも信頼できるケアの担い手」に育てていくプロセスだと感じています。
それは他者に頼らないという意味ではありません。必要なときには助けを求める柔らかさを持ちつつ、「すべてを外に委ねなくても生きられる感覚」を手に入れるということです。
これから先、風邪すら自由にひけない時代がやってくるかもしれません。けれど私は、風邪のときくらいは、自分の心と身体にやさしくしてあげられる人間でありたいと思っています。
診てもらえない日があってもいい。でも、自分を見失わない日でありたいですね。その願いをこめて、今日も私は「自分でできる範囲を広げる努力」を、自分に返しています。
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※本記事は情報提供を目的としており、医療行為・心理療法ではありません。個人の感想であり、効果を保証するものではありません。
最終更新:2026年4月